江戸浅草の今戸人形の伝統を受け継ぐ芝原人形を長南町で制作する千葉惣次さんと、江戸の大和絵、縁起物や玩具等の資料、文献を集め江戸蒔絵の技法を取り入れながら新しさを求めた「み太郎窯」の千葉眞理子さんを訪ねました。
 千葉惣次さんと芝原人形の出会い、4代目を継承するまでの経緯、伝統文化のこれからについてお話しを伺いました。
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 (芝原人形4代目・千葉惣次さんと妻の眞理子さん。眞理子さんの作品とともに)

芝原人形との出会い~祖母の思い出~

 幼少の頃、ひな祭りが近づくと祖母はいかにも楽しそうに木の台に土の人形を並べており、今もその光景が目に焼き付いています。僕が高校三年の時、その人形の作者が今でも隣村で制作中と知り、はるばる6キロ程の道を自転車のペダルを踏み訪問したのが、3代目田中謙次さんとの出会いでした。訪問の記念に人形を一点ずつ求め、いつの間にかその数は150点を超えていました。
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(3代目・田中謙次さん/長南町郷土資料館)
 訪問の折、遠方からの来客と度々同席する事があり、雑談の中で東京には郷土玩具の会があることを知り、その誘いを受けました。それは天使の囁きであり、悪魔の囁きでもありましたが、もう引き返すことの出来ないと予感がしました。上京と同時に入会し、親子ほど年齢差のある友人達と人形三昧の恵まれた学生生活を送りました。

 

芝原人形4代目継承〜自分しか出来ない役割〜

 大学卒業後、仕事の合間に、郷土人形を求め東西南北6年間明け暮れるうちに、物づくりの仕事をしようと7年目に陶芸家を目指し、岐阜県多治見に修行に出かけ10年目に独立を機に帰郷しました。

 その2年後、幸運にも仲立する人に恵まれ、田中家の了承を得て人形制作に携わることができました。試行錯誤を繰り返し、ようやく合格点が与えられ、正式に芝原人形4代目を継承することになりました。

 ささやかですが、ようやく自分しか出来ない役割(天職)を見つけたという実感を覚え、人形を求める側から作り手に変わった事に、湧き上がる喜びと幸福を感じた瞬間でした。

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(千葉惣次さん/千葉銀行・「房総こどもの四季-安房上総地方のわらべ歌」S61年制作)

芝原人形は上総地方のひな人形

 芝原人形は、明治から昭和30年代頃まで、上総地方のひな人形でした。そのことは日本唯一の民謡としての童唄「おひいなさま」の歌詞で理解されます。子どもたちは、3月4日にござ、むしろ、簡単なご馳走、芝原人形を持って近くの里山に登り、そこに人形等を飾り「おひいなさま、来年もござれー」と人形を高く掲げ、惜別の唄を歌うのです。

 人形に宿っていた神様や精霊は、3月3日未明に各家庭に来訪し、魔や厄を払い福寿を与えると信じられました。家族全員で神と共に遊び食事をし、ひな祭りが終わると神々は里山に帰る事から、年神様と同様、先祖神と捉えられていました。
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(長南宿の雛市・明治期のひな市の様子(推定復元)/長南町郷土資料館)
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(極彩色のひな人形が、最も美しく見える展示手法を取り入れたギャラリー)

 

「伝承切り紙」の研究

 僕は日本から消えゆく文化の事が大変気になります。ライフワークとしている「伝承切り紙」もその一つです。9年前、平凡社から「東北の伝承切り紙」を出版しました。
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(「東北の伝承切り紙」平凡社/千葉惣次著)
 切り紙文化の中心は宮城県、岩手県にあります。残念な事にこの存在を殆どの日本人は知りません。この切り紙は、日本人の宗教観を象徴する造形だと世界の人々に紹介したいと思っています。和紙を幾重にも折りたたみ、ナイフで切り開くと、あっと驚く美しい光景が現れます。微風が吹くとまるで命が与えられたように舞い上がり、はかなくも一瞬あの世を垣間見たように感じられます。

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(千葉さんの実家である醤油屋の蔵をイメージしたギャラリー。風が吹くと切り紙が美しくゆらめく。)
 

伝統文化のこれから

 縄文の土偶、動物形はアニミズムの象徴であり、以後絶えることなく、弥生、古代、中世、近世と続き、最後の姿が郷土人形です。発掘された考古資料からこの事は証明されます。年中行事に人形を祀るという行事は、世界の中で日本しかありません。日本独特の習慣であり個性です。

 先進国G7の中で多神教の国は日本のみです。他の欧米諸国はキリスト教国です。この事から日本が如何に異質な存在であるか理解できます。多神教、アニミズムの世界にありながら先進国に仲間入りした事に我々はもっと日本人として誇りに思っても良いのではないでしょうか。日本人として誇りを持つことこそ、未来の日本を築く事になるのではないのかと思っています。
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(千葉惣次さんの作品)
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(み太郎窯・眞理子さんの作品)
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(芝原人形館・み太郎窯)
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(天井から下がる切り紙、数々の民藝品、農具の中に芝原人形が溶け込む)

縁起物展

令和3年1217日(金)~26日(日)11時~16

芝原人形館・み太郎窯

長南町岩撫44

46-0850
☎︎090−3592–8837