山内の荒井清人さんのお宅にお邪魔し、代々伝わる「稲わら納豆」と「豆造(とうぞ)」作りを教わりに行ってきました。市販品にはないふっくらとした大粒で風味の強い荒井家の手作り納豆と千葉の郷土料理である豆造。その作り方と美味しさの秘密を追うレポートです。

納豆と豆造が出来る工程と準備するもの
 納豆が出来るまでには4日間かかります。通常、荒井家では味噌作りの時と一緒に大豆を煮て、その時についでに納豆と豆造を作るそうです。4日間の工程と準備したものは次の通りです。
(工程)
1日目▶︎大豆を洗い浸水
2日目▶︎大豆を煮る
3日目▶︎再度大豆を沸騰させ
、大豆をざるに上げ納豆をねせる(仕込む)
    大豆の煮汁で豆造を作る 
4日目▶︎完成

(準備したもの)
・大豆・・・・4.5キロ
・糀・・・・・1キロ
・塩・・・・・適量
・市販の納豆・・・・1パック
・稲わら(バインダーの束で4束)、一斗ざる、鍋、風呂敷、電気毛布、毛布、布団など

1日目(大豆を洗い、浸水)

  大豆を煮る前日に大豆を洗って浸水します。浸水は一晩以上行い、大豆の量は2~2.5倍になるまで浸します。今回は長南町の西部営農組合の大豆を使わせて頂きました。

2日目(大豆を煮る)
  前日に浸水した大豆をザルにあけ、鍋に大豆と水を入れ煮ていきます。今回はガス火で二つの鍋に分けて煮ていきました。沸騰して、はじめに出てくるメレンゲのようなふわふわとしたアク(泡)をすくいます。
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 その後のアク取り(泡消し)には何と「米ぬか」を使います。FB008C65-3B9C-4319-A55A-9EA33E209961 
 一つの鍋に大体ふたつかみ位の米ぬかを入れ、火加減はポコポコと静かに沸騰する位の火力を保ちます。米ぬかを入れると自然とアク(泡)が消えていきます。
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 火を入れてから約7時間でちょうどいい固さの大豆になりました。味噌作りの大豆を煮る時と同じように、親指と小指で簡単に潰せるくらいの柔らかさです。このまま鍋を火から下ろし、一晩置きます。

3日目(納豆をねせる、豆造を作る)
 前日に煮た大豆をもう一度火にかけ沸騰させ、火を止めます。煮汁がさらに濃くなり、大豆はさらに柔らかくなります。
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 火から下ろした大豆をザルにあけ、大豆と煮汁に分けます。
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 納豆と豆造は同時に作っていきます。豆造用の桶には予め塩を入れ、大豆の熱い煮汁で塩が溶けやすくなるようにしておきます。塩の量は後から調整できるので、入れすぎないように注意します。
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 納豆をねせる作業に入ります。稲わらのしぶ(ハカマ)を取り、濡らしたものを1斗ざるに敷き詰めていきます。
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 1斗ざるの内側を囲うように稲わらを入れていきます。
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 側面から見るとこんな感じになります。
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 大豆を人肌くらいの温度に冷ましたら、1斗ざるの中に入れていきます。
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 大豆を1/3位まで入れたら、「結びわら」と市販の納豆を数粒入れます。市販の納豆は、万が一わらの納豆菌が足らない時のための保険として入れます。
 「結びわら」は、わら2本を結んだもの。結び方に決まりはなく、後で取り出しやすいように2箇所結びます。
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 「結びわら」は5個位いれます。この上にさらに大豆を入れ、2/3まで入れたらまた同じように「結びわら」と市販の納豆を数粒入れます。
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 大豆を全て入れたら、稲わらで蓋をします。
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 さらに風呂敷で包み、電気毛布、毛布、こたつ布団でしっかり保温します。ここまでで納豆をねせる作業が終わりです。
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 豆造を仕上げていきます。大豆の煮汁と塩が溶けた桶に、ほぐした糀を入れて、残りの塩を塩梅を見ながら入れていきます。塩が少ないと傷みやすくなりますので、少し強めに入れます。
 煮汁は、大豆を1日煮て、翌日も煮ているので大豆のエキスがたくさん溶け込んでいます。糀は今回も藤平さんの糀を使わせて頂きました。

4日目(仕上げ、完成)
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 納豆をねせてから約24時間、保温を続けます。途中で納豆が汗を搔いているか確認をします。発酵が順調であれば、しっとりと汗を搔いて納豆の香りが強くなり部屋中に充満します。納豆の上にうっすらと納豆菌が付いているか確認し、出来上がっているようであれば息を抜いて完成です。
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 納豆が完成したら、豆造の樽に納豆を入れます。煮大豆ではなく、納豆を入れるのが荒井さんの家の豆造の作り方。煮大豆よりも風味豊かな豆造が出来るそうです。これで豆造も完成です。

 長南町の食文化を守りたい
 完成した納豆と豆造をアツアツご飯にかけて少しネギを散らして頂きました。長南町の方言でまさに「こてらんねえ味」(すごく美味しい)でした。
 大豆も糀も長南町産。そして代々伝わる作り方を教わりながら、こんなに美味しい納豆と豆造を作ることのできる長南町は本当に豊かだと思います。こうした親から子へ受け継がれていく食文化は時代とともに忘れ去られていまうものですが、まだこうした昔ながらの食文化が残っていること感動し、これらを守っていくことで長南町の魅力を伝えていきたいと改めて思いました。
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 ちなみに豆造は、地元の方でも好き嫌いが分かれるものですが、私がお裾分けした中で若い移住者や、昔から食べている近所の高齢者の方にはとっても好評でした。長南町の近辺では、市販されている豆造が多い事や家で味噌や納豆を作る家が少なくなった分、「手作りの豆造」は今となってはぜいたく品なのです。
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 作業の合間では、荒井さんに筍掘りにも連れて行ってもらいました。里山には、遊びがあり、学びがあり、食べ物があり、人間が人間らしく生きていく上で大切なものがたくさんあります。この豊かさを守り、伝えていけるように色んな方から昔ながらの知恵や文化をこれからも学んでいきたいと思いました。
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